Ranpoに寄せられたこの夏にピッタリの実話怪談【回診】

実話怪談 回診 病院

画像:shotokukai.jp

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#回診

あれは、私がまだ12歳の頃だった。

昔から病弱だった私は入退院を繰り返していた。

町の小さな病院で特別することはない。いつも窓から外の景色をボーッと眺めたり、ラウンジの本棚にある小難しい小説を読むのが日課だった。

私の病室には私以外に3人のおばさんたちが…いや、おばさんというよりは、おばあちゃんに近い感じだろうか。おばあちゃん達も特にすることは無いようだったが、病室で一番若い私をよく可愛がってくれる優しい人ばかりだった。

病室には週3,4回ほど、朝に院長さんが回診にやってくる。

回診といっても何をするでもなく、「元気ですかー?痛むところはないですか?」と聞いて回り、「最近暖かくなった」だの、「桜の咲く季節だねぇ」など些細な世間話をするだけだ。

でも、その時の優しい笑みに患者からの人気も高く、皆この回診を待ちわびているようだった。

ある夏の日、院長さんはいつものように私達の病室にやってきた。相変わらず気さくな笑顔ではあったが、ここ1カ月くらいで少し痩せてきているようだった。まぁこの院長さんも結構な歳なので仕方はないのだろうが、いつも元気そうだっただけにちょっと心配だ。

「スズキさん、腰は痛むかい?大丈夫かい?」

「あら院長さん♪そうだねぇ、ちょっと痛むかねぇ」

「そうかぁ、じゃあナースに湿布持ってくるように言っとくね」

そんなやり取りの後、私の方を向き

「おばあちゃんたちをよろしくねぇ、まぁまだしばらく元気そうじゃが」

「ちょっとー!何を言ってんのよー!」

こうしていつも院長さんのおかげで私達の病室は明るくなるのだった。

しかしその30分後、

「ありゃ?まだ湿布こないねぇ…」

「院長さん忘れちゃったのかもねぇ」とおばあちゃんたちが言うので、

「私がナースステーションに伝えてくるね!」

「ごめんねぇ、後でお饅頭あげるからね♪」

ということで私が看護師さんに伝えに行くことになった。スズキのおばあちゃんがくれる饅頭は美味しいのだ。
 
画像:hounendou.com

狭い廊下を抜け、ナースステーションへの最後の曲がり角のところで、看護師さん3人の話し声が聞こえてきた。どうやら看護師さん達も暇らしい。

「知ってる?202号室にまた来たんだって。相変わらずねー」

「あっ、知ってるわよ。それに404号室もそうらしいわね」

「本当に?実は305号室もよく来るんだってー!」

305号室は私達の病室である。

「院長さん、亡くなってもやっぱりそうなのね…」

「優しい人だったからね。今でも患者さんのことが心配なのよ」

(えっ!院長さん、さっきまで私達の所に居たのに!どういうこと?)

「亡くなってからもう1ヶ月よ。患者さんにしか見えないらしいわね」

そう、院長さんはもう亡くなっていたのだ。理解できない状況に私の鼓動は速くなった。

「あ、あの看護師さん、しっ、しっ…え、えっと…」

私は震える声で曲がり角から必死に声を出した。しかし「湿布」の一言が出ないまま、私は意識を失った。

気付けば翌朝。私はいつもの病室に居た。あの後運ばれたのだろう。

その日の朝、院長さんは来なかった。

でもスズキのおばあちゃんの枕元には、ちゃんと湿布が置かれていた。
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