【実話怪談】「あなたも気をつけなさいね」偶然乗り合わせたお婆さん

実話怪談

画像:Roberto Taddeo on flickr

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私は現在33歳。結婚して7歳のマサオが1人いる。

夫は平凡なサラリーマンで大学の時に同じサークルで知り合った。結婚は25歳の時だ。

裕福な生活とは言わないまでもそこそこ満足はしている。

ある日、私は買い物帰りにバスに乗り込んだ。席は一つしか空いておらず私がそこに座った。

しばらくすると数人が乗り込んできた。その一人に見知らぬお婆さんの姿があった。

お婆さんは、白髪で75歳を過ぎたご高齢のように見えた。

バスの車内は満員だった。お婆さんは苦しそうにしていたので私の席を譲った。

お婆さんは嬉しそうだった。愛想のよさそうな笑顔で、上品な振る舞いに私は好印象を覚えた。

お婆さんはしばらく私に向かって話しかけ、私も耳を傾けた。

訊くところによるとお婆さんは昔この地域にご主人と住んでいたそうだ。

ところが、主人と離婚して引越してからはずっとひとり身だという。今日は久しぶりにこちらに足を運んだそうだ。

久しぶりの他人との会話にお婆さんは満足そうだった。私はしばらく御婆さんと話し込むことにした。

初対面だったが話は盛り上がった。

それは私とお婆さんには共通点が多かったからだ。

私にはテニスの趣味があり、お婆さんも昔はテニスをやっていたという。

食べ物の好き嫌いも同じだった。お互いにオムレツが好きで、牛乳が苦手だった。

お婆さんはその理由を話してくれた。オムレツは母と一緒に作った料理で、小さい時から牛乳の匂いと味が苦手でよく怒られたと言う。

それは私とまったく同じエピソードだった。

私も母とオムレツを作った楽しい思い出があり、牛乳は小さい頃から飲めなかったことでよく叱られていた。

お婆さんの話は続いた。

元ご主人とは学校のテニスサークルで知り合ったこと、大学を出て両親の反対を押し切って25歳で結婚したこと、それが原因で両親と縁を切ったこと、それから間もなくして男の子を授かったこと、子供はマサオと名付けたことをお婆さんは話し続けた。

私は愕然とした。

お婆さんの話は、私がこれまで人生で体験したエピソードと全く同じなのだ。

私は主人との結婚を許してもらえず両親と縁を切ってもう会っていない。結婚の時期と子供の名前までがお婆さんとまったく同じなのだ。

偶然だと私は考えるようにした。

するとお婆さんはおもむろに左腕の袖をまくって腕を私に見せた。

私の背筋は凍り付いた。

お婆さんの左腕には大きな傷跡があった。テニスの試合中にバランスを崩して左腕を強く地面に打った時にできた傷だと言う。

その左腕の傷と全く同じものが私にもあった。同じようにテニスで負った傷だ。

私は言葉を失ってしまった。偶然にしてはおかしいと私は思った。まるでお婆さんは未来の私のようにさえ思えた。

お婆さんは次の停留所で降りると告げた。

私は、頭の中が真っ白になり、おもわず一言お婆さんに向かって質問した。

「し・・・失礼ですが、ご主人様と別れたきっかけはなんですか?」

お婆さんは寂しそうに目を伏せた。

「マサオが7歳の時に交通事故で死んで、私たち夫婦の関係は冷え切ってしまいました」

扉が開きお婆さんはバスを降りようとするが、不意に私に顔を向けてにっこり笑った。

「あなたも気をつけなさいね」

バスは扉を閉めて次の停留所を目指して走り出した。

しばらくして私の携帯電話が鳴った。

それはマサオが車に跳ねられたことを知らせる電話だった。
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