【実話怪談】「もうすぐ消えるんだ・・・」同僚が語り出した奇妙な男(2/2)

実話怪談 消失 行方不明

画像:Per Gosche on flickr

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突然の話に俺は困惑した。アオキさんは俺に向かって静かに語り始めた。話は、アオキさんがまだ若く、この仕事をやり始めた頃に遡る。ある現場で、Yという男性が現場に入ってきた。

Yは、背は高いが、弱々しい感じではない。しかし、とても肉体労働をするタイプには見えなかったそうだ。その時代は、バブル崩壊後でいろいろな会社が倒産し、リストラされた社員も多くみられた。日雇いの仕事に流れてくるのも少なくなかったそうだ。

Yがどういう事情でこの世界に入ったかは知らない。素性もわからない。しかし、肉体労働では仕事ができればそれほど問題ではない。

Yははじめ、無口で人を寄せ付けないような神経質な人間と思われていた。現場の仲間とは話さないし、仕事が終わればすぐに帰った。しかし、仕事はできる人間だった。

アオキさんは、Yに積極的に話しかけた。Yに仕事を教えたり、役割を与えたり、時には仲間の輪の中に入れるように務めた。次第にYも周囲に心を開くようになった。しかし、自分の素性は一切黙ったままだった。

ある時、仕事の帰りに現場のみんなで食事に行くことになった。もちろんYもいた。そこでちょっとした喧嘩が起こった。それは、酔った同僚とYの激しい言い合いだった。

その同僚は、Yの素性を探ろうとしつこく尋問した。それは、刑事の尋問のように相手を逃がさなかった。アオキさんは別テーブルで飲んでいたので気付かなかったが、嫌がるYに関係なく同僚の尋問は長時間続いていた。

さすがに怒ったYは、同僚の胸ぐらをつかむ喧嘩となった。しかし、アオキさんが間に入って事無き終えた。その同僚はかなり酒が入って興奮したらしい。Yもその場では静かになった。

何事も無い、ただの笑い話で済むはずだったが、翌日からYは現場に現れなくなった。翌々日も続き、遂に一週間も無断欠勤した。アオキさんは、Yが酒の席の事を気にしていると考え、Yのアパートに喧嘩を起こした同僚と謝りに行くことにした。

しかし、そこにYの姿は無かった。

部屋には、ごみが散乱し、とても人が住めるような場所ではなかった。アオキさんは、部屋の中を隅々まで探したが、Yはいなかった。外に出ているかもしれないと思い1時間くらい待ったがYは現れなかった。

その時、一緒にいた同僚がふとあることを思い出した。それは、Yの素性を聞きだすため、しつこく尋問した際に、Yが言い放った言葉だった。

「もうすぐ消えるんだ・・・」

同僚は今の今まで思い出さなかったようだが、その真意を聞き出そうとしてつかみ合いの喧嘩になったのだ。

結局、Yはそのまま姿を見せずに辞めてしまった。今となっては謎に包まれたYの素性を知ることはできない。ただ、アオキさんは時々Yのことを考えるらしい。今頃どうしているか、生きているのか死んでいるのか。そして、なぜ消えなければならなかったのか。

今思えばYは時期を見計らってはじめから消える予定でいたのかもしれない。なぜならYの自宅に入った時、ゴミ以外の生活品が全くなかったからだ。そこには引越した形跡も、物が移動した跡もない部屋だった、とアオキさんは振り返る。

今思えば、はじめ同僚たちと仲良くしなかったのは、消えることがわかっていたからだろう。Yの目的も消えた理由もわからない。考えても仕方がないが、人が消えるというのは簡単に起こりえるということだ、とアオキさんは言う。

アオキさんは俺に昔の同僚Yのことを話してくれた。なぜ、アオキさんが俺にそのような話をしたのだろうか。俺とYとは何の接点もない。なぜだろう。

「アオキさん、どうして俺にそんな話をしたんですか?」

アオキさんはジッと俺を見詰めた。

「わかるだろ」

翌日、アオキさんは消えた。誰にも何も言わず、ただ消えてしまったのだ。
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